金属床義歯
◆ 健康保険で作製する義歯の問題点は?
総義歯にせよ部分義歯にせよ、皆様が健康保険で作製された義歯には不満がいっぱいですよね。
入れ歯に厚みがあって、口の中が狭くなったような感じがするし、 バネや針金などの異物感が強くて不愉快ですよね。
特に食べ物の温度が分かりにくいのが困りますよね。食べ物の温度は味に響を与えます。
暖かい食事は暖かく、冷たい料理は冷たい食感で味わって食べることが出来て はじめて美味しく食事を楽しむ事ができます。
舌が入れ歯に邪魔されて、お話しがしにくいですよね。
入れ歯は元々人工的につくられたものですから、ある意味で異物です。
この物をお口の中に入れて慣らさなくてはならないのは、つらいですよね。
私は二十歳の頃、歯の矯正治療を受けました。
その時、そうですね、総入れ歯に歯が無いような形をした矯正装置を口の中に長期間入れた事があります。
初めて入れた日の違和感の凄まじさは今でも忘れられません。
『こんな装置をひとつ口の中に入れるだけて、頭痛までするとは !』
と、天を仰いで我が身の不幸を呪ったのを今でも覚えています。
健康保険で作製された義歯は安価であり、破損時の修理が比較的簡単であることが利点です。
欠点としては床が厚い( 約3~4mm )、たわみやすく、こわれやすい、汚れや臭いがつきやすい、人工歯がすりへる等が挙げられます。また、お話がしにくいのも困りますよね。
健康保険は病気になったら、その治療をするために日本国民が等しく同じレベルの治療を受けられるようにするために設けられた制度です。
ですから、出来るだけコストを抑え、歯科医師の技術料を最小限にまで抑えた規格診療です。
ある意味で殆どが必要最小限のものであるために、快適であるとか審美に関する事はあまり面倒みてくれないのです。
■健康保険では、満足できる入れ歯ができないのでしょうか?
とても答え難い質問です。
健康保険の義歯は出来るだけコストを抑え、歯科医師の技術料を最小限にまで抑えた規格診療であると述べました。
私は、歯は人体の臓器の一部という考え方が適切だと考えています。
当然、『入れ歯』は失ってしまった臓器に代わる人工臓器、しかもその本来の機能を出来るだけ忠実に再現したいものです。
失ってしまった臓器に代わる人工臓器といえば、義眼や義足を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
義眼では物を見ることは出来ません。多分義足を使って走る事はかなり難しい事だと思います。
義眼の価格は6万円前後から、義足の価格は25~100万円程度という話を聞いた事があります。
こういった特殊な人工臓器を作るのには私には想像もつかない高度な熟練と技術がある事と思います。
でも、それでも物を見ることは出来ませんし、歩行や走るといった動作にはぎこちなさが伴う事になります。
皆さんが『入れ歯』という人工臓器に求める条件は、
良く噛める事
噛んでも痛くない事
食べ物の味が出来るだけ変わらない事
発音が歯がそろっていた頃とほとんど変わらないように出来る事
自分の口に入れ歯が入っている事を他人に悟られない様にしてほしいという事
・ ・ ・ ・
沢山ありますよね。
では、もし皆さんが歯医者さんなら、
こんな条件を出来るだけ沢山兼ね備えた義歯を作るとしたら
『いくら』が適切な価格だとお考えになりますか?
皆さんがもし歯医者さんなら、
歯がなくなってしまったはぐきは実に色々な形態をしています。骨が薄い場所、逆に骨が出っ張った場所がありますので、 歯の型は出来るだけ正確にとらなくてはなりません。
噛みあわせは三次元的に的確に設定しなくてはなりません。
出来るだけ美しい歯の配列にしてあげたいと考えます。
噛んだ時、軟らかい粘膜が出来るだけ痛くない様に作りたいと思います。
そして、出来るだけ長持ちする、気持ちの良い入れ歯にしてあげたいと思います。
健康保険の現実に戻りましょう。
私たち歯科医師が、総義歯をひとつ作製した場合、作り方にもよりますが、健康保険から約4万円から5万円程度の診療報酬が支払われます。
その内、約6~7割は歯科技工士さんの取り分となります。
設計をしたり、型をとる、噛みあわせを取る、試適をしてみる、技工士さんに指示書を書く、これに伴い、歯科医院では、受付、衛生士さんたちが皆さんに出来るだけ気持ち良く治療を受けてもらえるように、気をつかいながら毎日一生懸命働いています。器具の滅菌の費用もかかります。
これらの人件費や材料代、設備費の償却を差し引いて、歯科医院に1円でも多くの正当な利潤が得られるような工夫が必要になります。・・・・・これは事実上不可能に近い部分があり、現実には赤字になってしまう場合も多いのです。
これが、義歯は歯科の『不採算部門』と呼ばれる由縁です。
それでも、鹿児島の真面目な歯医者さんは一生懸命良い義歯を作ろうと努力なさって頑張っていらっしゃいます。もちろん、全国に沢山いらっしゃる真面目な歯医者さんも同じです。
さらに、出来上がってお口の中に装着された義歯は、慣れるまでに、最低でも4回程度の調整が必要であるというのが、歯科界での常識です。
現実には、
歯医者さんで入れ歯を作ってもらった。
痛くて、気持ち悪くてかめない。
使わない。
6ケ月たったら、別の歯医者さんに行って、同じ健康保険内の技術で入れ歯をつくってもらう。
痛くて気持ち悪くてかめない。
使わない。
を繰り返して、多くの義歯のコレクションを持っていらっしゃる方が多いというのが現実です。
NHKスペシャル「入れ歯のハナシ」(噛めない、話せない、笑えない)
という番組が反響を呼んだのは、皆さん良くご存知の事と思います。
これは歯科医師だけの問題なのでしょうか?
患者さんが真面目に治療に通わなかったのが悪かったのでしょうか?
それとも・・・・・・・・
いずれにしましても、今後医療費削減の名の元に、診療報酬はさらに抑制されたものとなってゆくでしょう。
その時、入れ歯を入れなくてはならない皆さんは、どのような選択をされるのでしょうか?
■健康保険で作製する義歯と金属床義歯はどう違うのでしょうか?
入れ歯には金属床義歯などの自費で行う義歯と、保険で作製するレジン床義歯の2種類があります。装着感、耐久性、食感などの点から、金属床義歯は保険で作るレジン床義歯よりはるかに優れています。
では、金属床義歯と保険で作製した義歯とはどう違うのでしょうか?
レジン床義歯と金属床義歯の違い |
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レジン床義歯[保険適用] |
金属床義歯[自費治療] |
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形態 |
強度の保持のために、厚みが必要(約3㎜)。
食べ物の温度が伝わりにくい。
違和感が大きい。
汚れや臭いがつきやすい。
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床部分に金属を使用するために薄く作製することができる。このために違和感の少ない、装着感の良い義歯となる。
臭いが少なく、衛生的である。
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審美性 |
部分入れ歯においては金属のバネが目立つ。
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自費診療であるために、部分義歯で作製する場合には、バネが目ただないように工夫する事も可能。
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精度 |
プラスチックであるため、たわみ、変形がおこりやすい。
破折しやすい。
しかし、修理も比較的簡単に出来る。
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精度・吸着性ともに良好。
丈夫でこわれにくく、たわみ、変形が著しく少ない。
良質人工歯の使用により、咀嚼が効率よく行える。
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発音 |
舌の動きが義歯の付属物に邪魔されて、上手に話が出来るようになるまでに時間がかかる。
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床部分を薄く作製するため、自然に近い形態になり、舌の動きが義歯に邪魔されることが少ないため、発音しやすい。
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味覚 |
大切な部分がプラスチックで覆われるために、食べ物の温度が分かりにくい。そのため食品の本来の味が変化しやすい。
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食べ物の温度が伝わり易いので、本来の食品の味に近くなり、美味しく食事を楽しむことができる。
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上の表の右側は、義歯の真ん中の部分が健康保険でつくった義歯とは異なって、金属で出来ているのがお分かりと思います。
写真の金属はコバルトクロムという合金を利用しています。
この、真ん中の部分に金属を使用すると、食べ物や飲み物の熱が伝わりやすく、自然に近い味覚が得られます。
また、1~1.5㎜くらいまで薄く設計できますので、馴染みやすく違和感が少なく、発音なども比較的なめらかにすることができます。
人工歯にも選択肢が広がり、個性に合ったものを使用する事が可能ですので若々しい口元が得られます。
また汚れがつきにくく、気になる入れ歯特有の臭いが少なく衛生的です。
この金属は部分義歯にも応用できます。
とかく、部分義歯には付属物が多くこれが発音の邪魔になったり、舌に不快感を与える原因になっています。
部分義歯に金属床を使用しますと、患者さんは
『口の中が広くなった。』
『入れ歯が歯茎にぴったりと馴染んでとても気持ちが良い。』
と異口同音に同じような感想を述べられます。
それでは、金属床義歯の種類について見てゆきましょう。
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