金合金修復
まずは、金合金の物理的および化学的性質について説明したいと思います。
■物理的性質
金の他とは異なる特徴はその延性・展性です。
金は、延性・展性に富み純金1gでも3kmも伸ばすことが出来ます。
箔に打ち伸ばし透かして見ると反対側が見える程度まで薄くなります。
※1 展性(てんせい)…破壊されることなく薄い箔に広げられる性質
※2 延性(えんせい)…物体が、その弾性の限界を超えても破壊されずに引き伸ばされる性質
この金独特の性質が生体への親和性を高めています。
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歯医者さんは、歯の虫歯部分を除去した後に、神経に対する必要な処置を行います。
この後、窩洞形成(かどうけいせい)を行って、詰め物の特性に合わせて、削った部分の形態を整えます。
この後、型を採って、石膏模型を作製します。
この後ワックスアップ(蝋で窩洞にぴったりと合った詰め物の形をつくる事)を行い、この蝋型を埋没材の中に埋め込み、これを炉の中に入れて温度を上げると、蝋は蒸散してなくなり、後に鋳型が出来ます。
この鋳型の中に溶かした金属を流し込み、冷やして取り出し、その後研磨を行います。
この複雑な過程で幾つの材料が使用されるのでしょう。使用される材料は、それぞれ膨張したり収縮したりする性質があります。溶かした金属が冷えて固まる時には収縮します。
これらの製作過程でのわずかな歪を色々な工夫で補い合って、元の蝋型とおなじ金属の詰め物ができあがります。
しかし、ミクロン単位での精度で元の蝋型に寸法を合わせるのには、その使用金属の性質が大きく影響します。
現在、この歯科精密鋳造に最も適しているのは高カラット金合金です。
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真面目に読んで下さった皆さんは、ちょっと頭がこんがらがってきましたか?
金には、先ほど述べましたように延性・展性があります。この歯科精密鋳造でさえ、わずかな形の上での歪が残る場合があります。金の持つ延性・展性は最後に残ったわずかな歪を、元の歯の窩洞にぴったりと適合させるのにおおいに役立ちます。これにより、削られた部分に、高カラット金合金が精度よく適合します。
詰めた物と歯との境目から再び起こる虫歯の事を二次カリエスと呼んでいます。この二次カリエスを起こす危険が一番少ないのが高カラット金合金であると言えます。
同じように治療され、同じように歯磨きを適度にサボッた場合に、自分の歯に最も危険が及ばないのが高カラット金合金の良さです。
歯医者は、人間は、一生の中でいつも同じように歯磨きができない事を知っています。
病気で体調を崩した時やストレスで気が滅入っている様な時には十分な歯磨きが出来ない事もあるのです。
二次カリエスが忍び寄ってくるのもこんな時です。
こんな時、歯に詰めてある金属が金合金であるか、それ以外の金属であるかだけで、歯に対するダメージに差が生まれます。
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ですから、歯科医師は自分自身の歯や家族の歯の治療には金合金を使用するのです。
■科学的性質
貸そうかな。まあ、当てにするな。酷すぎる。借金。
懐かしいフレーズですね。そうです。イオン化傾向のお話です。
この『イオン化傾向』は金属アレルギーと深い係わりがあります。詳しい内容は『金属アレルギー』のページで説明してありますので、是非御覧下さい。
か(K)そうか(Ca)な(Na)、ま(Mg)あ(Al)あ(Zn)て(Fe)に(Ni)す(Sn)るな(Na)。
ひ(H)ど(Cu)すぎ(Hg)る。しゃっ(はっPt)きん(Au)。
学生時代にこんな風にゴロ合わせをして、必死になってイオン化傾向を暗記したのは私だけではないはずです。
金はセレン酸・王水などの一部の酸には溶解し、水銀とも反応をおこします。
しかし、通常このような物質はお口の中には入ってきません。
さて、何故イオン化傾向の話がでてくるのかは、もう皆さん大体検討がつきましたね。
イオン化傾向とは元素の酸化還元反応のしやすさの順位であり、酸化されやすい金属種の方が酸化されて金属イオンになることからイオン化傾向と呼ばれます。
早い話が、金属が電解質の中で溶け出してイオンになりやすい順番という事になります。
皆さんは中学か高校の頃、理科の時間にこのイオン化傾向の違いを利用して、豆電球に明かりを灯す実験をなさった事と思います。
この図は、イオン化傾向の高い亜鉛が、低い銅よりも早く電解質中にイオンとして溶け出し、その結果、2枚の電極間に電位差が生じて電流が流れ、豆電球に灯がつくと言う現象の説明であるのは直ぐにお分かり頂けると思います。
口の中はある意味でこれと同じ状態になっています。
歯という電極が、お口の中の環境(唾液やはぐき)という電解質の中に浮かんでいる事になります。
食べた食事、飲み物などは絶好の電解質環境を作ってくれます。
お口の中で電解質の環境が整うと、詰めてある金属がイオン化傾向の順番にイオンとなって、お口の中に流れ出てきます。
色々な金属があちこちバラバラに詰めてあると、いろんな場所に電位差が生じます。
なにかの拍子に、上の歯と下の歯がカチンと当たったとき『ピリッ』と何かを感じる事があります。
これは『ガルバニ電流』と呼ばれ、上下の歯にイオン化傾向の差の大きな金属が詰めてある場合に起こりやすいと言われています。これは上図の豆電球の実験とまったく同じ原理です。
また、お呼ばれの席で銀のスプーンをお口の中に入れた途端に『ピリッ』とした不快感を感じたり、誤ってアルミ箔を噛んでしまった様な時にも同じような経験をされた事があると思います。
このようにして、微量ではありますが、歯に詰めた金属はイオンとなってお口の中に毎日毎日溶け出していることになります。
これは、詰め物の辺縁部分の腐食につながります。詰め物の辺縁部分が腐食すると当然そこから二次カリエスが発生する原因になります。
それでは、最もイオン化傾向の低い(イオンになりにくい)金属は何でしょうか?
上の表の一番右側をみてください。
『Au(金)』ですね。
生活の中で、長い間、繰り返し環境の変化にさらされる、お口の中に適用するのに最も適した金属は『Au(金)』という事になります。
自分の歯が大切、自分の歯で一生楽しく食事がしたいと考えるのは誰でも同じです。
『もう、これ以上自分の歯を削られたくない、失いたくない。』そう考える歯医者は、歯のために一番良い金属は『Au(金)』である事を知っています。
だから、歯科医師は自分自身の歯や家族の歯の治療には金合金を使用するのです。
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