口を開けると耳の前の部分でカクカクと音がする。
口が大きく開かない。
噛むと顎が痛い。
一見どうもない歯が訳もなく痛む。
つぎ歯がよくはずれる。
顎の状態が不安定でどこで、どのように噛んだらよいか分からない。
朝、目がさめると顎の周囲の筋肉が痛かったり、こめかみが痛い。
このような症状を訴える患者さんに色々と聞いてみると、必ずと言っていいほど、次のような症状が複数合併しています。
頭痛・首すじや肩のこり・首すじがつっぱる・背中の痛み・腰痛・耳が痛い・耳鳴り・耳が詰まった感じ・難聴 |
目の奥が痛い・目が疲れる・舌や喉が痛い・物が飲み込みにくい・たちくらみ・手足がしびれる |
なんだか気が滅入る・全身的な疲労感・頬が痛い・鼻の奥に強い違和感・物を上手に噛み切れない・膝が痛い |
これらの全ての症状が顎関節症と直接関連があるという、決定的な証拠は現在の所どこにもありませんが、驚くほど高い頻度で合併しています。(勿論、色々と研究され因果関係が次々と明らかにはされていますが、いまひとつ決定的な証拠に欠ける症状が多い様に思えます。)
また、顎関節症の治療中や治療終了後にこれらの症状が消失してしまう事が多いという事実は、多くの歯科医がしばしば経験する嬉しいおまけです。
でも、肩こりが激しく、頭痛があり、いつも全身倦怠感があったとしても、それだけで顎関節症と決めつける事は出来ません。
やはり、症状に応じた診療科で必要な検査や治療を行う事が第一で、それでも不快症状が軽減しない場合に始めてひとつの選択肢として顎関節症を疑うべきでしょう。
私は自分の独断と偏見によって次のように分類して治療の一助としています。
学会のお偉方の先生に見つかったら怒られそうな分類法ですが、皆様には分かりやすいと思いますので、あえて記載いたします。
無症状(無自覚)型
自分に顎関節症がある事に全く気づいていない(気にしていない)が、将来悪影響を及ぼす可能性のある症状が認められる。
顎関節症に起因する症状に関しては、年のせいだとか、自分に与えられた試練であるかのように考えておられるようです。
たとえば、口が開きにくいので食事に時間がかかるが、これは仕方の無い事だとあきらめていらっしゃるんですね。
このタイプの方が一番問題です。
症状局所限局型
自分で顎の具合がよくない事を自覚しており、多少の不快症状はあるが、特に生活に支障がないと誤解して放置している。
このタイプは暫くすると、次の症状全身波及型に移項します。
すると、がぜん治療意欲が湧いてきて、変だと思っていた症状は、実はアゴのせいだったのかと納得されるようです。
症状全身波及型
強度の肩こりや腰痛・めまいや耳鳴り・手足のしびれ等を合併しており、これらの直接の原因のひとつが顎関節症であると考えられる状態。
この型の方は、現在、整形外科・脳外科・針灸治療院・カイロプラクティク・あんま・整骨院等をハシゴしていらっしゃる方が多いですね。
お薬もお腹一杯飲んでいらっしゃる方が多いようです。
『どこに行っても治らない、どうしよう?』と毎日悩んで暮らしていらっしゃいます。
どこかで当院を紹介されて来院し、治療を開始しますと、全身症状がどんどん軽減されてゆきますので、治療意欲満点で確実に最後まで治療を済ませて、以後快適な生活を送ることができます。
治療開始1週間後に来院されて、『先生、長年苦しんできた、坐骨神経痛が治りました。』とか『もう、10年来悩まされ続けてきた頭痛がすっかりなくなりました。』と嬉しそうに話してくださる患者さんがおられます。
別にそんな治療をした訳ではないのですが、『よかったですね!』と患者さんと一緒になって、治療経過良好の状態を喜ぶことができます。
歯医者になってよかったなと感じる瞬間です。
精神失調型
上記の症状に加え、不安や精神的に重篤な落ち込み等の症状を合併している状態で、特にこの精神失調型の患者さんは気の毒な方が多く、
自分はうつ病だと思い込み薬の服用をおこなっていた外科医の先生、
心療内科・精神科に通院している方、
自分の不調につき繰り返し治療経過を訴えどうにかならないかと懇願する方
病院めぐりで疲れ果てている方、
神様にすがる方、
もう生きていたくないとつぶやく方・・・・・
色々です。
なぜ、このように心が落ち込むのか、私にはわかりません。
下アゴのズレが噛み合わせる時に使う筋肉に微妙な影響をあたえ、そしてこれらの筋肉の一部が頭蓋底に付着している事を考えれば、筋肉の微妙な緊張が頭蓋骨の一部を長い間に変形させて、これが精神に影響を及ぼす原因なのでしょうか。 |
多くの顎関節症では、上アゴに対する下アゴの生理的位置関係が狂っています。
下アゴがうしろにさがる、上方(または外側)にズレている(下顎の後上方転位)
という状態が認められます。
この下顎の後上方転位という状態は、顔の形や表情に良く現れます。
① 下顎が引っ込んでいて、唇が飛び出している様にみえる。
② 下唇の下のしわが深い。顎が短い。
③ 唇の左右が下にたれさがっている。
④ 噛み合わせが深く、噛んだ時に上の歯が下の歯の大部分を隠してしまい、外から見ると下歯がほとんど見えない。
これらの状態があれば全て顎関節症であるとは言い切れませんが、顎関節症の患者さんたちに特徴的な状態である事には違いありません。
顎関節症に伴う諸症状には、一応筋の通った次のような説明が支持されています。
現代人は運動不足や咀嚼回数の低下、ストレスによる歯ぎしりなどの咬耗ために、奥歯が短くなっています。
そのため、下顎が後ろに下がります(または、後ろに下がった状態になっています。)。
奥歯の左右の高さのアンバランスにより、右または左にもズレます。
「下アゴがズレているなんて!」と驚く方もいらっしゃるかもしれませんが、現代人に共通している事なのです。
奥歯が十分に伸びていないと、噛み込みが深くなり、下アゴが左右または前後にズレてしまいます。
噛みこみが深くなると、頬にある筋肉がたるみます。このたるんだ頬の筋肉を元に戻すよう「縮め!」と、脳が命令を出すのです。
その命令が全身の筋肉にも影響を及ぼします。
その結果、脊椎に歪みや捻れが生じ、『つらい首や肩のこり』につながってしまいます。
また、物を噛む時には、頭の重さの約3倍の負担が頚椎にかかります。
下アゴがズレた人の場合は、より深く噛み込む事になるので、物を噛む度に3倍以上の強い力で頚椎、脊椎を圧迫することになります。
さらに、下アゴがズレると頬にある神経から、絶えずストレスが大脳に送られます。
すると、脳の機能がおろそかになり、熟睡に必要なホルモンが減少してしまいます。これでは何時間寝ても疲れがとれるわけがありません。
この事実を知らないがために、ほとんどの方はその場しのぎの「対症療法」に頼るしかない訳です。
これらの説明を全て肯定する事はできないかもしれませんが、否定する根拠もどこにもありません。
このように下顎を偏位させるのは、咀嚼筋の拘縮(反射性に起こる筋肉の収縮)で、その直接の原因はストレスだと考えられています。 |
この事から、顎関節症の治療の根本はストレスの軽減と噛み合わせる筋肉に対して、その異常な運動をコントロールする事が大切であることが、お分かり頂けると思います。 |
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